NC旋盤をぶつけた!【タレット芯出し(芯高調整)・精度調整修理】

最近NC旋盤をぶつけてしまったお客様「NC旋盤にて、早送りでタレットとチャックがぶつかってしまった…。不良品が出てしまう…。端面加工時にへそが大きく残ってしまう…。製品のテーパーが大きくついてしまう…。何とかしてください!」

このような症状にどう対応するか、実際の修理実績を紹介しつつお答えしていきます。

本記事の内容

  • NC旋盤ぶつけた!事故後の状態は?
  • 精度測定の必要箇所を解説
  • NC旋盤の芯出し・精度調整修理の作業内容
  • 干渉事故の再発防止対策をどうする?

本記事の信憑性

この記事を書いている私は、15年の大手工作機械メーカーでのサービスエンジニア歴2000件以上のメンテナンス実績をもとに、現在は独立してフリーランスのサービスエンジニアとして活躍しております。

動画解説:NC旋盤をぶつけた!【タレット芯出し(芯高調整)・精度調整作業】

本記事の「タレット芯出し(芯高調整)・精度調整作業」を抜粋して動画で解説しております。文字情報よりも頭に入りやすいと思います

「最近機械ぶつけてしまったけど、なんとかごまかしながら使っている…。このまま使うか、修理依頼するかどうしようかな…。事故後の修理に関してもう少し情報ほしいな…。」そんな考えお持ちではないでしょうか?

機械をぶつけた時の音や衝撃は本当にびっくりしますよね。私自身、新入社員研修時代に補正値を間違えて入力してしまい機械をぶつけてしまったことがあります。その時は心臓が止まるかと思うほどびっくりして、頭が真っ白になったのを覚えています。

※3分ほどで記事は読む終わります。3分後にはNC旋盤の芯出し作業(静的精度の調整作業)の流れをより理解できるようになっています。

機械をぶつけてお困りの方必見となります。

今回事例としてあがるお客様は、NC旋盤にてエア機器部品の生産をされております。

NC旋盤をぶつけた!干渉事故後の主な症状は?

干渉事故後の主な症状としてはこちらになります。

  1. 加工寸法が狙った値にうまく出なかったり、ばらつき出る
  2. タレット割り出し時に異音がしたり、完了が上がらない。
  3. 端面加工時にへそが大きく残る
  4. チャックワークや心押しワークでテーパーがついてしまう
  5. 刃物の寿命が短くなった

これらの症状を芯出し・精度調整作業で改善していくことになります。

今回伺ったお客様の状況としては、段取り替えの後に補正値の入力間違えてしまい、早送りでタレットとチャックがぶつかってしまい、以下の症状が出ているそうです。

  • 干渉事故後、加工精度が狙った値にうまく出ない。
  • 端面加工時にへそが大きく残る。
  • 円筒切削時にテーパーがついてしまう。
  • 心押し作業時にもテーパーがついてしまう。

精度測定の必要な箇所を解説

まず最初に刃物台、主軸、心押しに関する静的精度の確認を行います。

主な7つの測定箇所をはこちらになります。

  1. 各軸のバックラッシの測定。送り軸に影響がないかを判断します。
  2. タレットのZ軸並行の測定。刃物台の取り付けに傾きが出ていないかを確認します。
  3. バイト取り付け位置である溝平行を測定して、タレットのX軸並行を確認します。
  4. 芯高(主軸中心と内径ホルダー中心の位置関係)を測定していきます。主軸側にピックを、タレット側には内径ホルダーを取り付けて芯の高さ(Y軸方向)にどれだけずれが出ているかを測定します。干渉事故後にはこの値はずれが大きくて測定できないことも多いです。
  5. メインチャックの振れを確認します。
  6. 主軸の傾きの確認のために、円筒切削をしていただき、加工ワークにどれだけテーパーがあるかを測定します。
  7. 心押し軸中心と主軸中心の位置関係の測定のため、心押し加工でテーパーがどれだけつくかを確認します。

どういった状況で干渉事故を起こしたのかで測定箇所は変わってきますが、よくある刃物とワークの干渉事故の場合にはこのような測定となります。

芯高の測定方法に関してはTAKAMAZさんの動画が参考になります。

今回のお客さま先での精度測定結果は以下の通りとなりました。

  • 各軸のバックラッシ 問題なし
  • タレット並行(Z軸との並行) 0.2mm
  • 溝平行・芯高(主軸中心とタレット中心の位置関係) 測定不能
  • メインチャックの振れ 0.05mm
  • 主軸テーパー 0.12mm先太/100mmにて
  • 心押し加工時のテーパー 0.2mm先細/100mmにて

干渉事故の影響で刃物台、主軸、心押しの静的精度が大きく狂ってしまいました。

また、それぞれの位置関係も大きくずれているため、うまく加工できなかったと考えられます。

芯出し作業(静的精度の調整作業)が必要と判断しました。

NC旋盤のタレット芯出し・精度調整修理の作業内容

測定結果をもとに、各静的精度の調整を行っていきます。

  1. まずはカバーやプロテクターをばらしていき、各固定ボルトを触れる状態にします
  2. 刃物台のZ軸平行を調整していきます。刃物台本体の固定ボルトを緩めて調整ボルトにて傾きを調整します。調整後には固定ボルトを本締めするのを忘れないように気を付けましょう。
  3. タレットの溝平行及び、芯高を調整します。タレットを固定しているボルトを緩めて調整用の偏心ピンでX軸平行を調整していきます。溝平行が出ていれば、通常芯高も規定値内に収まるはずですが、事故により刃物台にひずみが生じている場合は両方が規定値に収まらない場合があります。その場合は芯高を優先して調整するようにします。最終的な刃先の当たり具合が一番大切ということです。
  4. タレットの芯高調整時に、M8の固定ボルトが曲がってしまっていたため新品に交換いたしました。
  5. チャックの振れを調整します。取り付けボルトを緩めてチャックの振れをとっていきます。だいたいはチャックの振れの調整だけで済むののですが、どうしても振れの値が改善しない場合には主軸やチャック本体に不具合が発生している場合があります。
  6. 主軸の傾きを円筒切削をしたテーパーの値をもとに、主軸台の固定ボルトを緩めて、調整用ボルトを使用して調整していきます。
  7. 心押し台の調整を心押しワークのテーパー値をもとに調整していきます。主軸と心押しの中心線を合わせると共に、心押しの平行もチェックする必要があります。
  8. X軸の原点復帰位置の調整作業を行います。Z軸方向はワークオフセットにて対応していただくことがほとんどです。原点復帰位置の調整は、ファナックや三菱電機などの制御機器メーカーによって調整方法やパラーメータが変わってきます。
  9. プリセッターの調整。補正値をもとにパラーメーターで調整したり、実際にワークを削っていただき、狙い値と実寸の差を比較して調整していきます。今回は補正値をもとにパラメーターにて調整しました。
  10. 全てのカバーやプロテクターをもとに戻して、軸移動させても問題ないこと確認します
  11. 最終的には製品を加工していただき問題ないこと確認いただき作業終了です。

作業後の精度検査結果

  • タレット並行(Z軸との並行) 0.005mm
  • 芯高(主軸中心とタレット中心の位置関係) 0.01mm
  • チャックの振れ 0.01mm
  • 主軸テーパー 0.004mm先太/100mmにて
  • 心押し加工時のテーパー 0.006mm先細/100mmにて

注意する点としては、干渉事故の衝撃が、各固定ボルトにまでお影響し、ボルトの変形や破断が発生している場合があります。測定したバックラッシの値が大きい場合は送り軸の固定ボルトに異常があったり、タレット精度の測定値が安定しない場合には固定ボルトが変形してしっかりと固定できていないといった場合があるので、作業中にチェックするようにします。

固定ボルトが触りずらい箇所にあったり、鬼のように固い場合があります。特殊な工具が必要になったりすることもあります。ここで苦労することは本当に多いです。

干渉事故の再発防止対策

今回はヒューマンエラーから機械の不具合につながりました。

段取り後のプログラム運転時には、ワークオフセットで刃先を逃がして動きを確認することが必要です。

修理もそうですが、焦りは禁物です。焦っいると様々チェック項目を飛ばしてしまい、ミスにつながり、結局余計に時間がかかってしまうことがよくあります。焦っても何一ついいことはありません。事前にチェック項目を決め、おおちゃくせずに確実に作業を進めていきたいですね

NC旋盤の芯出し作業(静的精度の調整作業)はサービスエンジニアの基本と言われがちですが、非常に難しく、奥が深い作業です。機械自体も複雑化しているので私自身もまだまだ勉強が必要だなと感じています。

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