【ATCトラブルの原因まとめ】ATCオーバーロードアラーム編
最近ATCでお困りのお客様「マシニングセンタや複合加工機で、ATC(自動工具交換)動作中にツールを落としてしまう…。ツールが抜けない状態で止まる…。ATCタイムオーバーで止まる…。ATCの時に異音がするようになった…。何とかしてください」
今回このようなトラブルを過去の実績を紹介しながら答えていきます。
本記事の内容
- ATC不具合の代表的な症状はどのようなもの?
- ATC不具合における主な原因をまとめました
- ATC不具合における原因調査と作業内容
この記事を書いている私は、15年の大手工作機械メーカーでのサービスエンジニア歴と2000件以上のメンテナンス実績をもとに、現在は独立してフリーランスのサービスエンジニアとして活躍しております。
この記事を読んでいるあなたは、「最近ATCの調子が悪いな…。何が悪いか調査したいけど構造がよくわからない…。」こんなお悩みをお持ちではないでしょうか?
ATC機構はメーカー、機種、年代によって変わり、その構造は本当に様々です。複雑な機構のものも多く、メンテナンスが難しい箇所だと思います。そのうえ、故障確率が高いところなので、設備メンテナンスのためには避けては通れません。故障原因においても本当に様々なのですが、私が今まで経験してきたことをもとに、ATCの不具合症状や原因に関してまとめさせていただきました。
※3分ほどで記事は読み終わります。3分後には、今までよりもATC不具合対応への理解が深まっていると思います。
今回事例にあげるのは、測定器部品の生産に使用されているマシニングセンタのATC不具合修理についてです。
ATC(自動工具交換)の不具合でお困りの方必見です。
ATC不具合の症状
ATC不具合には、これらの代表的な症状があげられます。
- ATCオーバーロードアラームで止まる
- ツールアンクランプアラームで止まる
- ツールクランプアラームが発生する
- ATCタイムオーバーアラームが発生する
- ATC交換中にツールを投げる
- ATC途中に異音がする
- マガジンポットアラームが発生する
- ATC旋回動作しない
- ATC旋回で止まらずに行き過ぎてしまう
今回事例にあげるお客様では、自動工具交換の際に、ATCアームがツールを掴んでいる状態で、ツールが抜けないままATCオーバーロードアラームで機械が止まっていました。
不具合原因まとめ
ATCの代表的な不具合症状における、考えられる原因箇所をまとめました。
ATCオーバーロードアラームが発生している場合
ATCモーターへの過負荷による過電流でツール旋回用のマグネットスイッチのサーマルが飛んでいることが考えられます。この場合は、ツールアンクランプ不良の可能性が高いです。ツールを抜こうとするタイミングで止まっているのではないでしょうか。
アンクランプ不良の原因としては、機械に採用されているATC機構にもよりますがこのような原因が考えられます。
- ATCの油圧回路にエアが混入して規定値までアンクランプ圧力が上がっていない。
- ルシファーバルブの不良により、ATC時の油圧回路に切り替わらずに圧がうまく上がっていない。
- ATC動作連動のアンクランプ用ローラーベアリングが破損し、圧が上がっていない。
- アンクランプシリンダ本体の不良。
ツールアンクランプアラームで止まる
ツールアンクランプ信号が完了しないため発生します。可能性として考えられるのはこちらです。
- アンクランプ動作していない
- アンクランプ圧力が足りずにスイッチの反応する規定の位置まで押し込めていない
- スイッチ不良やずれの可能性があります。
ツールクランプアラームで止まる
ツールクランプ信号が上がらない原因として考えられるのはこちら。
- 皿バネが割れて、クランプ力が足りず、既定の位置までツールを引き込めていないため、ドローバーと連動している確認ドッグが、クランプスイッチの確認信号が上がる既定の位置までいけていない。
- クランプ、アンクランプ用のソレノイドバルブの不良によりアンクランプ動作できていない。
- スイッチの位置がずれている
- スイッチ自体の不良
ツールクランプ、アンクランプスイッチ周辺はスルースピンドルクーラントなどの水がかかりやすい場合が多いため、スイッチの故障が多い箇所です。
ATCタイムオーバーが発生している
ATC動作中に適切なタイミングでオンオフするべき信号が正常に入ってきていないです。ATC動作中のどのタイミングでアラームが発生するのかを見極める必要があります。今回まとめた原因箇所のどれかに当てはまってくると思います。
ATCの時に異音がしている
異音に関しても、どのタイミングで異音がしているのかが重要なポイントです。よく見られるものとしては、これらの原因があります。
- ATCアームの位置がずれてツール抜き差しの時に主軸テーパー部やポットに一部干渉している可能性があります。
- アンクランプ圧が足りておらず、コレットが開ききっていない状態でツールを抜き差しすることになり、異音が発生していることもあります。
いつもと違う音がしてきたら何か不具合の兆候です。そのまま放置せずに症状が悪化する前に対処するようにしましょう。
ツールを落とす
ATC動作中にツールを落としたり、投げたりする原因として考えられるのは
- ATCの爪、アーム部分が曲がってきている
- ツールロック機構のスプリングなどの部品が破損している
- ツールロック機構が錆や汚れなどで動きが悪くなっている
- ポット側のロック機構の破損
- コレットが割れている
- ATCアームの位置ずれ
ツールを落としてしまうことで、ツールやセンサーを破損させてしまったり、加工ワークをダメにしてしまう可能性があります。少しいつもと違うなと違和感を感じたら、マニュアル動作でATC動作を一つずつ点検するようにしましょう。
マガジンポット交換位置アラーム
マガジンポットが交換位置への移動を完了できていません。機械によって「ポット下降完了できていません」など具体的に止まっているポイントを表示してくれる場合もございます。原因としては物理的にポットが移動できていないか、信号の確認が取れていないと考えられます。
- マガジンポットを動作させているエアシリンダーの不良
- ポット動作のためのエアソレノイドの不良
- ポット位置確認スイッチの不良や位置ずれ
ATC旋回動作しない
ATCモーターが動作していないと考えられます。
- 旋回用のマグネットスイッチ、制御リレーの不良の可能性があります。
- ATCモーターの不良
ATC旋回時に止まらずに行き過ぎてしまう。
ATCモーターにブレーキ電圧がかかっていないと考えられます。
- ATCブレーキ用のマグネットスイッチの不良
- ATCブレーキ用の制御リレーの不良
ATCの回数はお客様の機械の使い方にもよりますが、通常かなりの回数となります。ATC動作のたびにリレーやマグネットスイッチには電圧がかかってオンオフすることになるため、どうしても故障のしやすい箇所となります。消耗品とも考えていい箇所ではないかと思います。
原因調査
ATC不具合の原因調査でまず大事なのは、「どこでATC動作が止まっているのか…。どういったアラームが発生するのか…。どういった不具合の症状が発生しているのか…。」をしっかりと見極めるのがポイントです。
不具合が発生した時の状況をお客様からよくヒアリングしたり、ツールのない状態でマニュアル操作で一つずつATC動作をさせながら、原因を調査するようにしましょう。
今回のお客様は、ATCのツールを抜くタイミングでATCオーバーロードが発生しておりました。
ツールは主軸からは抜けた状態で、ATCアームが掴んだ状態で止まっていました。そのため、ツールロック機構を一度ばらしてツールを取る作業を行いました。
ツールがない状態でマニュアル操作で確認していったところ、コレットが完全に開ききっていないことがわかりました。アンクランプ動作はしているのですが、圧力が足りていない可能性があります。
作業内容
今回のアンクランプ圧力を確認し、圧力改善するためのエア抜き作業の流れはこちらです。
- カバー取り外し
- アンクランプの圧力メーターの値が上がっていないことを確認
- アンクランプ回路の油圧油の量を確認。
- 油量が減っていたため補充
- エア抜き作業の実施
- エアが油圧回路に結構混入していました。エア抜き作業の実施で無事に圧力が上がってきました。
- 圧力が規定値まで上がってきたところでコレットの開きを確認。問題なくコレットが開くようになりました。
- ATC動作をマニュアルで一つ一つの動きを確認しながら実行。一連の動作に問題はないが、ATCアームの位置が少しずれていました。ツールが抜けない状態でATC動作したためアームのずれに繋がったと考えられます。
- ATCアームの調整を実施
- マニュアル動作でATC動作や位置に問題ないことを確認
- 自動ATCでも問題ないことを確認しました
- 取り外したカバー類をもとに戻す
- しばらく自動プログラムでランニングかけて問題ないためお客様に機械を引き渡して作業終了です。
再発防止対策
今回のお客様の再発防止対策としては、定期的にATC回路の油圧油の量や、圧力メーターの点検をお願いいたしました。
閉鎖回路が採用されているATC回路では、基本的に油は減ってこないのです。しかし、アンクランプシリンダーなどから少しずつはどうしても減っていきます。半年に一度程度点検すれば十分かと思いますが、もし油の減る量が多い場合は、油漏れの可能性がありますので漏れ原因調査と修理が必要です。
ATC動作中に止まれば、部品やツール、加工ワークの損害に繋がることもあります。止まった位置によっては復旧に時間がかかってしまうこともあります。定期的な点検により予期せぬマシンダウンを未然に防ぎましょう。
ATC機構の種類は本当に多く、複雑な機構も多い上に操作も多岐にわたります。そのうえ新しい技術も日々増えてきております。エンジニアにとって常に勉強が必要なところですね。