【6つのバックラッシュ原因まとめ】NC旋盤のギブ調整修理編
NC旋盤のバックラッシュにお悩みのお客様「最近R加工時にワークにすじが入るようになった…。加工寸法は問題ないがバックラッシュがあるかも…。製品の良し悪しに影響あるのでなんとかならないかな…。」
こういった修理の実績紹介しつつ、バックラッシュに関する疑問に答えていきます。
本記事の内容
- 工作機械における6つのバックラッシュの原因をまとめました。
- バックラッシュ調整・ギブ調整修理の作業内容。
- 良品完成!製品のすじが入る不具合の改善に至るまでの解説。
この記事を書いている私は、15年の大手工作機械メーカーでのサービスエンジニア歴と2000件以上のメンテナンス実績をもとに、現在は独立してフリーランスのサービスエンジニアとして活躍しております。
※3分ほどで記事は読む終わります。3分後には工作機械ののバックラッシュに関するお悩みがクリアになっています。
工作機械のバックラッシュでお悩みの方必見です。
今回依頼を受けたお客様では、航空機器の部品をNC旋盤にて生産されております。
6つのバックラッシュの原因をまとめ
NC旋盤のR加工にてすじが入ってしまう要因としては、移動軸のバックラッシュが起因しています。
下記に6つの電気的とメカ的なバックラッシュの発生する原因をまとめました。
- バックラッシュのパラメーター調整が必要
- 象限突起をパラメーターで調整必要
- ベルトのゆるみや劣化
- ボールねじやベアリングの不良
- 摺動面、ギブのがたつき
- リニアガイドの劣化
バックラッシュのパラメーター調整が必要
各メーカーのNCにはバックラッシュを補正する機能が搭載されています。補正用のパラメーターを増減させることにより、軸方向が切り替わる時のモーターの動きを制御してバックラッシュを調整します。
- メリット:パラメーターを増減して調整するだけなので、手軽に試すことができます。
- デメリット:メカ的な要因に不具合の原因がある場合、パラメーター調整だけで不具合改善が難しい場合が多いです。
象限突起をパラメーターで調整必要
機械やオプションによっては象限突起調整用のパラメーターが搭載されています。各軸の軸方向切り替え時の補正値の大きさ、タイミング、速さなどを細かく調整でき、象限突起を改善してきれいな円を描くことができるようになります。
- メリット:新しい機械などでメカ的な問題がない場合、象限突起調整作業を行うことで、きれいな円を描き、製品のすじを消すことができます。
- デメリット:専用のソフトや測定機器を必要とすることが多く、制御機器メーカーや工作機械メーカーの専門家の出張が必要となります。
ベルトのゆるみや劣化
ベルト駆動ならメカ的な要因はまずここを疑います。ベルトの劣化やゆるみが原因でバックラッシュにつながっていることがあります。
- メリット:ベルトのテンションの張り直すだけなら時間とコストは低く抑えられます。
- デメリット:落下軸は、ベルトを外したり、緩めた時に軸が落下する危険性があります。安全に十分注意しての作業が必要です。
ボールねじ、ベアリングの不良
ボールねじやベアリングのガタが多くなってきており、そのガタがバックラッシュに影響している。
- メリット:軸移動時に異音が発生しているようならまず疑う箇所です。ボールねじやベアリングでバックラッシュが大きくなっているなら、交換作業で大きな改善が見られます。
- デメリット:機械によるが、交換作業に数日かかることもある。ボールねじまで交換必要な場合は、部品代と作業費でコストが高くなってしまう可能性があります。
ボールねじ、ベアリング不具合対応の実績紹介はこちら
摺動面、ギブのガタつき
摺動面のがたつきが大きくなり、刃先にまで影響がでていることがあります。
- メリット:ギブを追い込むことで摺動面のがたつきを修正することができます。ギブが触りやすいところに位置しているなら、そこまで時間のかかる作業ではないです。
- デメリット:摺動面まで悪くなっている場合は、大規模なオーバーホールが必要となります。現地での対応が難しい、コストが高すぎるということで機械を廃棄することを決められるお客様もいらっしゃいます。
リニアガイドの劣化
送り軸がリニアガイド仕様なら、リニアガイドの不具合の可能性があります。ローラーパック内のボールのガタつきが大きくなってきています。
- メリット:他に加工精度に多くの影響が出て、良品を作れない状態なら、リニアガイドの交換で大幅な改善が見られます。
- デメリット:大規模な修理になり、長期マシンダウンは避けられず、コストも高額になってしまうことが多いです。
バックラッシュ調整・ギブ調整修理の作業内容
バックラッシュの調整、ギブ調整修理作業内容については以下の通りです
- 現在の各軸のバックラッシュの測定。バックラッシュ測定値 X軸0.008mm Z軸0.02mm
- 電気的かメカ的な要因かをまずは切り分ける
- バックラッシュパラメーターの調整を行いました。バックラッシュ測定値 X軸0.002mm Z軸0.01mmに改善。
- 値としては悪くはないので一度加工していただく。少しましにはなったが、まだすじが残る。
- メカ的な要因をチェックしていく。
- ボールねじ、ベアリングの状態を確認。問題なし。
- 摺動面のガタつきの可能性があるのでZ軸方向のギブを追い込んでみる。
- 加工して確認していただくと、すじが消えて良品完成しました。バックラッシュ測定値 X軸0.002mm Z軸0.003mm
すじがない良品完成
結果として、今回の製品のR加工時にすじが残ってしまう症状は、Z軸摺動面のガタによるバックラッシュが刃先にまで影響していたことが原因でした。Z軸方向のギブを追い込むことにより、摺動面のガタつきを修正し、不具合の解決をいたしました。良品完成してお客様にも大変満足いただけました。
加工寸法に影響しないほどのわずかなすじですが、製品の良し悪しにかかわる重要な部分です。こういった繊細な修理はなかなか難しく、今までの経験を生かしたトライアンドエラーの繰り返しをするしかありません。先の見えない経験と根気の必要な作業でしたが、良品が完成したときの嬉しさはとても大きかったです。